前回の続きです
前回の続きで「在庫」がテーマですが、今回は行動経済学と言われる人の心理を踏まえ
た行動(経済活動)についての注意点を書きたいと思います。
行動経済学はノーベル賞の受賞者(ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー
(死亡のため未受賞))が出たことで有名になりました、経済学と心理学の間の学問と言
われています。
言っていることは「人は”限定的に”合理的だ」ということです。皆さん自分は合理的な
判断が出来てると思ってますよね。二つの商品を見せられたらどちらが得だか自分は選
択できると。ところが人間は時と場合によってその判断が”怪しく”なるんです。
例えば、慎重なオーダーを積み重ねてきたバイヤーがセール商品の仕入れは大雑把になる
。。そんな事あったりしませんか?「堅実」と自称する皆さんの判断も実は怪しいww。
それをカーネマンは実験で証明してノーベル賞までもらったのです。
人は損が嫌い
まずは行動経済学で一番代表的な「人はなぜ損を気にするのか?」から始めたいと思い
ます。始めてこの話を聞いたのは、セブンイレブン鈴木会長の時代の本でした。セブン
の儲けのトップ20%(2対8の法則)は米飯類、おにぎりやお弁当ですがこれについ
ては異論はないと思います。
鈴木会長はトップ品番は売上を伸ばさなければいけないと説きます。例えば”シャケの
おにぎり”、利益を出してくれる品番は機会ロスさせてはいけない。では質問です、あ
なたがオーナーならどうやったら自分の発注で「機会ロスしていない」と証明できま
すか?
鈴木会長はその答えは簡単だと、「少し売れ残りが出てこそ、機会ロスはなかったと
いえる」つまり、売れ筋ほど余らせないと十分な仕入れだったと証明できないという
事です。
例えていうと、ここにコップがあり、コップの容量が需要だとすると。人間の心理だ
とコップから水が溢れない様に慎重に水を注ぎ足しますよね?でもギリギリまで入れ
るには時間もかかるし「ちょうど」というラインで注ぐのは難しい。
そこで、機会ロスがなかったという証明はコップからいくらかあふれる必要があるの
です。角打ちの日本酒や生ビールの注ぎ方ですね。「おっとっと。。こぼれちゃもった
いねえ」と言うぐらいで丁度いい。
洋服業界で考えれば、売れ筋の多少の余りは死に筋ではないのですからそれほどの値引
きは必要ないからです。それよりも、シーズンで2割しか見つけられない売れ筋での収
益を失うことの方がよほど損することになります。
会長が口酸っぱくこの話を唱えるので、セブンの営業はこの教えを持って、ヒット品
番の在庫を切らさないように指導しています。フランチャイズオーナーに地域営業が
説明する。
しかし、オーナーは抵抗するのだそうです。なぜだと思いますか?主力の売れ筋で、
在庫を積めば自分の利益が増えるんですよ。
なぜ反対するのでしょう?
行動経済学(=プロスペクト理論)で説明すれば
人はいったん見込まれた利得(売れ筋が順調に消化した)がある場合、「追加によっ
て見込まれる更なる利得の増加」よりも、目の前にある「損」の方を嫌うのです。
より利益が見込まれという不確実性よりも、(余るほど発注するのだからいくらか損
をする事は)確実な損を嫌うのです。
セブンではこのプロスペクト理論を上手に使う事で、90年以降のデフレ経済、人口
減少にも唯一実績を上げる事で打ち勝ってきています。プロスペクト理論を実行する
上で、トヨタ型生産や頻度の高い配送システムも整備しています。
90年代に成長したセブンが90年代に発展した行動経済学を応用している。いかに鈴木
会長が勉強熱心であったか!
一方で、余った米飯類のセールを認めない本部の姿勢に対してフランチャイズオーナー
から訴えられる騒ぎになるのはプロスペクト理論でみれば部分的は理解できます。売り
上げを伸ばした事よりも自分のお金が「廃棄」される事は人は我慢できないのです。
(裁判は廃棄そのものについてでは無い)」
これらの人の不合理な感情を実験で証明したのが、行動経済学を一「躍有名にした「プ
ロスペクト理論」です。
プロスペクト理論とは
まずバックグラウンドとして人間は3つの不合理的な考え方から逃れられない(奇癖)
があると言ってます。
- まず「自分が持っているのもに惚れ込んでしまう」
- 次に「自分が持っている感情を他人も持っているはずだと考える癖がある」
- そして「人は利益の確保よりも、まずは損失を免れようとする」
そこで質問です
「なぜあなたの家の押入れ(タンス、靴箱、クローゼット、持ち越し在庫など)は
価値がないものが大事にしまってあるのか?」に答えられますでしょうか?
答え
「捨ててしまうと損が確定するから。捨てた後に後悔するともっと損した気になる」
いかがでしょうか?
保有効果(フォールス・コンセンサス効果)
この気持ちの中には保有効果(所有効果)が含まれます。人は何かを保有した時に、それ
を保有してない時よりも高く評価する傾向があるのです。趣味で集めたものは高い価値が
あると思いがちです。
足で回った展示会で買い付けた今シーズンの商材は自信溢れる物だと思います、私も毎回
そういう感情を持っていました。まさかそのうちの8割が利益を生み出さないとはその時
には思いつきません。自分のものに惚れ込んでしまう!老舗ほど在庫を溜め込んでいる!
合わせてプロスペクト理論の2つの主張は
- 同じ規模の利得と損失を比較すると、損失の方が重大に見える。
- 発生する確率によっては人はリスク回避的にもリスク志向的にもなる。
カーネマンの実験によると、自分が持っている物を売ってもいいと思った金額は、買って
もいいと思った側の2.25倍になったのです。約2.5倍人は得よりも損を重く見るので
す。売れ筋を懸命に勧める世の営業マンは得意先が耳をかさないと嘆く前に是非この心理
を理解すべきです。
先ほどのセブンのオーナーが抵抗するのも「発注し過ぎて、残ったおにぎりは俺の金だ!
」という思いが強いのです。食品は廃棄になりますから心理的な抵抗は強いのですね。鈴
木会長はそれが分かっているので、繰り返し指導したそうです。2.5倍の抵抗があると。
営業マンはこの心理を理解した上で理解した上で顧客を説得するのです、セブンの地域マネ
ージャーを真似ることです。あなたの連結器としての努力が無いとバリューチェーンは成功
しないのですから踏ん張るべきです。
我々の業界でも、死に筋の見切りが遅れるのは保有効果が影響しています。春物、秋物の
見切りは難しいです、気温も見えないので持ち越しがちです。業界に実験的に導入されて
いるAI(人工知能)が成果を出せたのは「見切りの勧め」です。
人は行動経済の影響から判断が身びいきになりがちですがAIは非常に通告します「OFF!」
SPAは大量の商品を作るので、店頭に置き続けるかアウトレットに送ることで店頭のスペー
スを有効活用するのか?またアウトレットに送りいくら値引きすれば良いか?の判断は保有
効果のある人間の脳では正しい判断はできないのです。
しかし、そのAIの判定は利益をもたらすそうですが、シーズン開始直後から見切りばかりにな
るという現実はいかがな物でしょうか。。バイヤーは精神的に耐えられないと思います。
後編へ続く