97:「その商品はテストされているか?」

こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?

 

今日は齋藤孝浩さん新刊からの学びについて書いてみます。

「アパレル・ゲーム・チェンジャー」日経BP 1980円

 

齋藤さんはフリーランスの先輩として後輩達にアドバイスを送る活動

もされてます。その活動でもご挨拶させて頂きましたし、個別のセ

ミナーにも参加させていただいた事があります。

 

大変物腰柔かい口調で、細かい事までフォローアップしてもらえる親

切丁寧な内容でした。この本でもそういう点は十分に感じられます。

 

そんな齋藤さんの新刊の中で私が特に興味深く感じた事が今日のテー

マで、それは「テストの重要性」です。

 

小売業の深遠なテーマは「未来予測」で、時として水晶玉(クリスタ

ルボール)に例えられます。結論としては誰も未来の事などわからな

いのですが、少しでも先のことが推察できればすごく有利な商売がで

きます。

 

事に、アパレル業界では(今でこそ短くなりましたが)原料の糸から

完成品までのリードタイムが長いので予測することが大変難しくなり

ます。

 

これはどの時点で予測するかということでもあります。

 

デザインの”予測”に重点を置くのでしたら十分に引き付けて材料も手

元に用意しておく、または材料自体ありあわせで良いと考えラインだ

け予約して生産するやり方。(引き付けたから当たるわけでは無いと

多くの方は経験があると思いますので、大抵引き付け+αの策を講じ

るでしょう)

 

逆に原料で予測する。例えば、猛暑対策のために冷感素材を使おうと

いう場合には、(原料のロットも大きい事も加わり)原料での差別化

は自ずと長い予測になります。(予測が長い分デザインはベーシック

になるでしょう)

 

この様に差別化のポイントで予測の使い方も変わる事になります。

 

この本ではそう言う予測がどの様に戦略に織り込まれているかも分

かり易く書かれてます。

 

強い戦略を持つには再現性が必要です。科学的に再現できる、つま

り売れると確証を持ちながら営業を続けていかないと、(感と度胸

に頼っていては)どこかで大外しで蓄えが無くなってしまう事にな

りかねません。

 

「テストがそこまで重要か?」と異論のある方もいらっしゃるでし

ょうが、他業界の新規事業開発でもテストに勝るものは無いという

のが定説だと思います。真実はマーケット、消費者のみが知るです。

 

この本の中には「10のビジネスモデル」が紹介されてますが、注目

の2社(ZARA/SHIEN)が「テスト」を戦略の中に織り込んでるこ

とが述べられてます。

 

今回はそこに注目した次第です。

 

Contents

「アパレルゲームチェンジャー」

戦略の重要性を会計で確認する

私はテストに着目しましたが、この本自体の面白い着眼点は企業

戦略と会計(PL/BS)が連携してまとめてある事です。

 

解説によると戦略としての一貫性がある(再現性もある)ポイント

に、投資が集中的に行われていたり、特定の項目の資産が膨らんで

いるから良くわかるなどの解説がされています。

 

予測が科学的に効果を導き出しているのであればそれで儲けも増え

ているはずです。

 

この本を読んで自社のPL(黒字でなければ始まらない)の利益がB

S上でどの様な特徴となって現れているかを見てみると面白いでしょ

う。

 

さしたる特徴がないBS(現金資産が増えて行かない)のならば、そ

の状態は茹でガエルなのかも知れません。

 

ZARAとSHEINのテスト戦略

ZARAのポイント

「シーズン商品のリスク」という箇所で説明があります。(詳しく

は是非本をお買い求めください。)

 

・シーズンの見込み生産は全体の25%に抑える。

・ライトオフと在庫日数の関係

・在庫日数とリードタイム

・サプライチェーンのボトルネック箇所(素材・サンプル・ライン

確保)を本社と外部での使い分けで柔軟性を出す

・大量生産より作り足しの方が歩留まりが良くなる

・投資をサプライチェーンに行う

 

という様な解説がされています。

 

生産体制によほどの自信がないとシーズンの7割強をオンシーズン

で作るのは暴挙になるところです。(サンプル依頼も原料調達もラ

イン確保も他社と競合する)

 

この戦略の「テスト」にあたる部分は、最初の25%でよい情報が

集まる様にしてある。(ZARAの店頭を見ているとAW物では7中

投入の新作はトレンド性が強いものが多く、9月のシルバーウイー

クから落ち着いた定番寄りの内容に切り替わって行きます)

 

その後の作り足しは先行して投入した製品の当たりをヒット分析し

て(一捻りしながら)新作を出していくそうです。

 

例えて言えば、メロンパンがヒットすればそれにナッツが乗った物、

チョコ風味の物と(クッキー生地の食感が好評とヒット分析され)

その情報を活かした新作を投入するので、セール時期に近くともP

消化される訳です。

 

市場テストを踏まえた新作なのでQRとは違うのです。

 

新作の作り足しの障害となるのは、素材の確保、ラインの確保、新

作サンプルなどです。また前提としてヒット分析(大量の世界各地

のアドバイザー)が必要です。

 

メーカー様にとってはとても真似しづらい戦略ですが、地方専門店

様の立場からすると(メーカー開拓は必要ですが)仕入れ手法への

参考になると思います。

 

SHEINのポイント

シーインの特徴は産地直送と言われます。届いた商品の送り状を見

ると中国ローカル工場からの直送だとわかります。

 

また越境のさせ方にも特徴があります。しかしなんと言ってもEC販

売なのが特徴です。いわゆるD2Cですね。社長がエンジニア出身な

のでデジタル化されたサプライチェーンを背景にしてます。

 

戦略と言うのも「ビックデーターに基づきテストを繰り返しながら

、データに基づいて効率を重視しながら判断、アクションを起こし

て拡大する」合理的な作戦になります。

 

ABテストをデジタルで行う

本で紹介されますが基本はマーケティングで使われるABテストです。

消費者は直感で選べばよく、模擬人気投票で多くの人に”求められる

であろう”商品に寄せて行くことができます。

 

ABテストの良さはコストが比較的かからずPDCAが回しやすい事で

す。

 

それを可能にしているのがデジタルの力であり、また工場との関係

性です。試売品作りは面倒ではあるものの、ターゲットが定まれば

十分な発注があるなら協力も厭わないでしょう。

 

残念ながらテストの規模はわかりませんが、凄まじい型数を展開し

てると聞きますので、テスト品番も展開数としてカウントされてい

るのでしょう。

 

SHEINの取り扱い品目は安価ですので、価格帯が高いとまた別のマ

ッチング手法が必要になるのかもしれません。感情の要素が入って

くると他人と同じ物は嫌だという感覚が強くなるのではないでしょ

うか?

 

(ドラッグストアの薬や本屋のベストセラーでは、評判が良い物を

求める心理が強いと感じます。そういう店で「売れてます」のポッ

プを見ると思わず手に取ってしまうと思います。1点ものが良いか

量販ものが安心かの視点は別で議論したいところです)

 

オートクチュールからプレタポルテが分離した流れから、買いやす

い価格帯になる事をファッションの民主化と呼んだりします。

 

消費期間が短いトレンド物ほど安価で手に入れたいと消費者が合理

性を前提に考える以上、現在のファストファッションの位置付けに

なることは仕方がない事なのでしょう。

 

そう言う競争原理の上で勝てるビジネスを計画すると、SHEINの様

に合理性を突き詰めたビジネスモデルになるのでしょう。

 

日本のトレンドは着回しなどの実用性が優先され、色柄も絞られて

て来るので、この様なABテストを自動化で行うのは難しいのだと

推測します。

 

(最近、ボンジュールサガンという躍進企業の記事を読みましたが、

500人のインフルエンサーと成果報酬型でタッグを組んで販売促進

をしてるそうです。この取り組みの過程でもある種のテストが発生

してる気がします)

 

個人的な考えでは、ZARAやSHEINの様な柔軟性を実現しようと思

うと自ずとサプライチェーンの柔軟性を併せ持つことを考えなけれ

ば行けなくなるでしょう。

 

国内でこういう話をすると、先行モデルがユニクロさんしか無い為、

「ユニクロの真似ができるはずが無い!」と反論が出るのですが、

中価格帯の方々は現実的にはサプライチェーンのグループに入り(

スーパーの生協の様に、共同購買)事でしかないと思います。

 

自分で垂直統合する意思を持たないならば、共同統合でインフラを

共有するしかないと思います。(差別化にならないと考えるか?市

場とマッチングできないと考えるか?優先度の違いですね)

 

日本のマーケットは着回しなどの合理性優先でファッション性は

ほどほどで良く、味付けと称する誤差に近い差別化でファンが付い

て来てくださるのならここまで大規模なテストや戦略は必要ないの

かもしれません。

 

島国であり1億超の人口がある恵まれたマーケットで商売してる我々

にとっては人口と言うマーケットがあれば「細かい事を気にするよ

り今のままで良い」と言う考えに落ち着くのは自然の事なのかと思い

ます。

 

テストを戦略に織り込んでいく姿勢はそれだけ海外に出ていきたい

意思をどの程度持っているのか?と言う試金石になっている気がし

ます。

 

国内勢力で唯一海外に出れるのではと私が考えるアダストリアさんが

AIを使った予測という手法が果たしてこのテストに当たるのか?見守

りたいと思います。

 

業界のテスト形式

雑誌文化の時代

我々が使っている代表的なシーズン予測は雑誌との連携です。雑誌

の問い合わせから反響を測っていました。

 

業界ではこの反響を最大化するために「プレビュー」と呼ばれるメ

ディア向けの展示会を企画する事でお互いのネタの擦り合わせを行

います。読者の反応はお互いにありがたい事ですから。

 

70年台はDCの時代で、サンプルの管理はアパレル側が厳しく、雑誌

貸し出しも苦労があったそうですが80年代以降、セレクト業界に力

が出てくるにつれ雑誌社との二人三脚の呼吸が生まれて来ました。

(これはプレビューのモデルを作ったUA社の栗野氏のお手柄だと記

憶してます。)

 

90年代は雑誌文化が花開き黄金期となりますが、あれから30年、発

行部数の落ち込みともに目立たなくなって来ました。

 

 

サロン型D2C

梨花さんのようなファンとの距離が近いブランドが出てきて、109

系の会社からスピンアウトした時代に収まらない企画者の存在、キン

グコング吉野さんのサロン活用術などが重なりD2Cの形が出来てきた

様に感じます。

 

インスタグラムは2015年から使い始めた先行組に成果が出てき始め

たのが2018年ぐらいからで、大手アパレルの新規事業開発が落ち着

く中で静かに会員を増やしそれが目立ってきたのがその頃だと思いま

す。(リアル店舗を出しにくい環境になった事が重なりました)

 

ポップアップや限定店の活用などでどこからが日本版D2Cの走りかは

正確には知り得ません。多分アメリさんだと思うのですが。。

 

今回のテーマは「テスト」ですので、そこに着目しますと私の推しは

福岡のセレクトモカさんです。

 

定期的なインスタグラムから定時のライブ活動、そこから会員をプー

ルしてサロン化。サロン会員にシーズン先見せ予約特典付きを行いま

す。(これらがオリジナルの考えか誰かを見て参考にしたのかはご当

人にインタビューしないと分かりません)

 

会員の先見せ予約が、先の発注に役立つことで先行発注の数出しと追

加企画の精度とダブルで役に立つと新聞記事に出ていました。(都心

の大手は20年以降にならないと動きません)

 

マーケティング的にもその他大勢のペルソナ向きであった雑誌文化か

ら自分のファンと言うコアなペルソナの意見が聞けると言う意味でも

画期的な変化となりました。

 

プレビューSNS合体型

その後、大手アパレルでも組織改変が進み(一番先頭はナノユニバース

さんでしょう)プレス系の人間がECサイトを担当し、雑誌のような見

出しコピーにレイアウト、商品別に撮影者を変える念の入れ方でECサ

イトからの情報発信力を拡大させました。

 

それらの施策の延長で効果が出てきたのがプレビュータイミングで

の先行予約です。(ライブで販売するのは現物が多いの対にして、

大手さんに取っては先行予約の旨みの方が大きかった様に見受けま

す)

 

プレビューや社内展示会にインフルエンサーを呼んで下見させるアイ

デアもありましたが、やはりお呼ばれの席で厳しく商品を批判するな

どできない訳です、たいがいただのパーティになりがちです。

 

その点でプロのスタイリストに選抜理由を述べさせるブログで買うべ

き推しのポイントをしっかり表示。先行予約と併せ掲載させたベイク

ルーズさんのサイトが最も説得力があると個人的には感じています。

 

ZOZOをモニターとして使う

もう少し小さい会社ですと上記のようなバックオフィスの数がいま

せん。

 

その場合のモニターにはZOZOや楽天のようなECモールを使ってい

る様です。自社ECよりも通行量の違いの理由です。

 

先行投入量を極端に抑えて瞬時に判断するのですが、多分にデータ

と言うより勘に近い感じです。

 

原料を抱えて、ラインもキープしてるからできる訳なので、当たり

が芳しくないならまた企画すればいいという割り切りがある様です。

 

この点ではZARA型とも言えます。

 

社内目利き型

店舗数がある小売型の場合、社内に目利きの人材が存在します。そ

の活用ですが、そう言う人材は店頭でも貴重であり、会議に連れて

くる経費もかかりますがやる価値はあると私は思います。

 

「何が売れそうか?」でサンプルや情報を集めますと女性メンバー

は平均的な形にまとめる事は割と容易く出来ます。

 

しかし苦手なのは山をつけていく事です。「どれくらい?」という

適量の問題が大きいと個人の経験で感じるところです。

 

チームで評価会議を行うとしまうま型の議論になり、それぞれの推

しを尊重し合うと消費者目線が薄れていってしまいます。そうすると

サンプルが落選しない状況になります。(体験談)

 

全て当選すると薄く広く店頭に並んでしまい、そこからの手当が後

手に回ります。

 

平均的にボリュームを付けた発注をしてしまうと倉庫はやがて溢れ

るでしょう。

 

そう言う意味で社内でのテストは「どれくらいの人数で」「どの様

な客観性で」が問題になって来ます。参集するメンバーには”売れる”

と言うのはどう言うことか?が体験と直感のバランスが組み上がっ

てないといけません。

 

これはうまく回ると機能します。ただこの議論に生産側が従う覚悟

がないと、「生地がない、ラインが空いてない、間に合わない」で

話が終了してしまいます。

 

テストには生産サイドとの二人三脚が必要です。

 

まとめ

各社秘伝のタレの如く、秘密の社内選抜方式を運用してるはずです。

しかし表には出て来ません。

 

上手くいっている会社からすると、テストでふるいにかけるのは当た

り前すぎてニュースとは思えないでしょう。

 

上手くいかない会社はそこに秘訣があるとは思い当たらないと思いま

す。

 

そう言う意味で斉藤さんの本を参考に「我が社の戦略は何だ?」それ

が上手くいっているのなら現金が増えてるはずであり、利益はその部

分に再投資されもっと強くしていくと言う手応えが見えてるはずです。

 

皆様の強みがもっと活かされますよう期待しています。

ではまた次回

 

 

 

 

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