69:「自律的分散型に注目してみる」

こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?

 

このところ「在庫」をテーマにする機会が多いのですが、今日は少し違う切り口でお話ししたい

 

と思います。

 

在庫を極小化をキープした上で商売を盛り上げようと思えば、それが成功している状態はサプライ

チェーンとディマンドチェーンが連携している状態で、例えて言えば動脈と静脈と言えると前回そ

のような内容を御紹介しました。

 

ディマンドチェーン とサプライチェーン連携の他業界の実例はたくさんあります。個人的には花王

を注目しています。花王には「ディマンド・サプライ」と言う言葉や部署があるくらいです、このく

らい現場に落とし込んでこそ初めて可能になる話だと思います。

 

 

今日の補足はディマンドチェーンに関して、需要の見極め方についてです。以前、売れ筋の見分け

方としてベーシックな方法「オーバーマイヤー法」の記事を書きました。当たり前すぎる方法です

が、丁寧に行うことで効果があることは私も体験しています。

 

 

紹介する自律的分散型と言うのは、中央で全てを仕切らずに現場にある程度権限を渡す考え方で

す。

 

Contents

自律的分散とは、中央司令とここの判断の組み合わせ

発注の分散と権限の分散

よくチェーン店で、店別の店長が仕入れた方が売れるとか、商売感覚が一番ある人間にバイヤー

をさせた方が上手くいく、と言う話を聞くことがあります。

 

店別の仕入れにさせるのは発注権限の「分散」です。中央でまとめて仕入れるのが「集中」になり

ます。この中間というスタイルもあります、他業界の例を上げてみると

 

●タクシールール

A>指定場所に配置される→B>客が少なく客待ちタクシーが多ければ別場所に移動して良い

A>客からの入電は全車に通達される→B>選択は個々の損得でする

 

●エレベーター管理

A>各エレベータの自律判断→B>現在位置と呼び出し階の距離で判断→C>乗り過ぎは警報音

 

権限を分散させてるという意味で、有人のタクシーと無人のエレベーターの例です。共に中央が

ルールで縛らずに状況に応じての許容性を持たせています。ちょっと身の回りを探すと似た例は

あるかも知れません。

 

自律的分散のポイント

自律的分散型の考え方は「一部のミスよりも全従業員の潜在能力を重視する」ところにあります。

 

初期のSPA登場の頃はプロパー消化率90%の時代でしたが、現在は50%以下です。ニッチな需要

も掘り起こそう、インフルエンサーの手も借りようという時代ではこの自律型分散の思考は必要で

はないかと思うところです。

 

このシステムを用いているところはトヨタの「アンドン」があります。トヨタでは工場内でトラブ

ルを発見した場合、一工員の立場でもライン停止の権限が与えられています。通称アンドンと言わ

れる上からぶら下がった紐を引けば良いのです。

 

工場は1日の生産目標があり、1秒を切り出して生産性を上げてます。そのラインを止めるのは大

事ですが、その考え方の裏には「もし見つけた不良を見逃せば、その全てが作り直しになる。そう

なる前にラインを止めることが大事だ」という品質管理の考え方があります。品質は生産性の上位

に来るのです。(それがブランドです)

 

ここまでの権限移譲は勇気が必要ですが、皆様の社内でも多少は行われていると思います。

 

我々の業界で自律型を用いているのはZARAです。次シーズンのサンプルを見て、選んで枚数を入

れるのは店です。一見すると非効率です。そもそも多くのデザイン物を投入するところから非効率

に見えるのですが、売り切りのモチベーションを高めるのにも効果があるのでしょう。

 

欧米の人事は成果主義なので。。という説明を伺った事もあります。世界展開してるからという理

由もあるでしょうが(日本の内情は知りませんが)。私としてはトヨタを学んでいたZARAゆえに

権限移譲の効果を重視してるのでは無いかと考えます。

 

またこの仕組みは国内ですとフランチャイズを取り入れている企業ではベースの考え方になってい

ると思います。

 

と、この考え方を紹介した上でサプライ・ディマンドチェーン について考察を進めてみます。

 

SPAの配分

アパレルでこの発注権限の分散を聞く機会は昔に比べて減った気がします。何せ52週MDですか

ら。商品の出入りが激しくなり店別の特徴を出す機会は失われたのかも知れません。

 

 

SPAの場合の問題点は中間の需給調整が”ない”ということです。仲卸やセリの様な中間での選別が

仕組みとしてないので発注量が配分されてストレートに店に入ります。

 

いやいや、そんな事はないという場合は2つあると思うのです

・サンプル検討会はしている:それで企画がどれだけ没になるのか?です。引きつけている場合は

やり直しの時間がなくなる等の理由で手直しでGO。ヒット商品が欲しいという思惑から前年の焼

き直しでGOしている。

・DB(ディストリビューター)がいて各店配分している:売り上げ予算に合わせての配分をしてい

るだけ。物の良し悪しの判断はMDに任せている。

 

いろんなバリエーションがあるでしょうし、それぞれの手法の欠点をアイデアで補われてるかも

しれません。(ぜひお聞かせくださいww)

 

SPA、いわゆるオリジナルで作られている商材は大方、客観的な意見や視点は入りにくくなって

いると思います。もともとSPAの創生はGAP社ですが、一番得意なデニムから始めているのです。

その様な主力商材にはシーズン毎のトレンドを加味する必要もさほど無いでしょう。

 

SPAを進化させたワールド社も古くからあるオーバーマイヤー法を復活させたのですから、 SPA

の欠点補強にはその様な手法が必要だと早くから理解していたのだと思います。(それにはサンプ

ルを早く上げる必要がありますが、その問題点は現在では3D CADが助けになりつつあります)

 

ですので、SPAの欠点に関してはディマンドの吸い上げに関して「客観的視点の折込方」で上手く

行きづらい点があるではないかと考えるのです。

 

DBが送り込むだけの存在ならば

そもそもがディストリビューターの仕事が商品の配分、送り込むのが仕事だとすればその仕事の

精度はどの様に計測されるのでしょうか?

 

もし、店頭配分が(需要への対応が)うまく行って無いのならば

A>売れ筋が足りなくなる〜機会ロスを起こす→配送で補う

B>要らないものでバックルームが埋まる→身動き取れなくなる

 

このAとBではどちらの「ロス」が大きくなるか?でDBの評価はできるかも知れません。

Aを重視する人は、百貨店の様なツボ効率を重視する売り場の方でしょう。来店客の時間が偏っ

ていて同じ商品を縦に売る場合です。しかし、基本的には配送の問題になります。

 

バックルームに同じ商品があれば近いというだけで、百貨店のそばにサテライトを設けピストン

するのもそうですし、山崎パンがコンビニに1日3回配送するのもそうです。商品の送り込みが

適正な間隔で可能ならば店頭で在庫を抱える必要はないことになります。

 

基本は「何が売れるか誰にも予想出来ない」(P消化が50%切るのですから、ほとんど売れない

に変わりつつあります)のですから機会ロスは配送頻度を上げることを「主」として捉えた方が

良いと思いませんか?

 

(この場合の配送担当側の積載量が伴わない便は減らしたいという意見は正しくなく、優先度は

「需要」に従ってもらうべきだと思います。コストを下げることよりも売り上げ(利益)を伸ばす

ことを重視します)

 

プッシュ思考が送り込みに繋がる

売れ筋が売れれば倉庫在庫に引き当てが行き、在庫があれば配送されます。これは店頭から倉庫

への「プル」です。コンビニの飲料を棚から抜くと(棚に傾斜が付いているので)直ぐに在庫が

補填されます。前列在庫を「プル」すると後列在庫が「プッシュ」されるわけです。

 

DBが最初から最小ロット以上の量を送り込むのは(売れるだろうという)予測に基づくものです

。送り込んだバックルームには店頭と同じ家賃が掛かってますが、このスペースを広くするだけ

「待ち」のコストが掛かることになります。

 

これに多店舗からの客注文、ECからの引き揚げ注文、棚卸し作業が加わります。またMDシーズン

進行と季節がずれた場合、出せない在庫も滞留します。よって販売員が日常の4割以上を物流作業

に費やす事になります。

 

プッシュ型は余程の精度があれば機能するのでしょうが、そもそも販売型数を絞り込めない段階

で自信が無いわけですから販売数量が売れるというのは全く根拠がない事になります。

 

この様に横持ちの物流費や人件費などまともに計測するとあまりの巨額に驚く「プッシュ思考コス

ト」なのですが、販売部長、MD中隊長の下、突撃命令が下されている状況では在庫を送り込みま

くるのが正しい戦闘への貢献姿勢となるのでしょう。

 

この様な状況でいくら正論だと思っても「プル型」思考を戦場に持ち込む事はかなりの勇気を必要

とします。

 

繋がったチェーン上に「ちょうど良い」在庫だけある状態というのは、チェーンに関わる企業の最

小の資金投資で効率よく現金が生まれてる事になります。(それぞれが過剰な仕掛かり在庫や納期

に合わせるための完成在庫を持たない)

 

それが望ましい状況なのですが、現場にクローズアップしていくと、プッシュかプルの一方通行の

思考であったり、突撃思想を評価する人事体系だったりします。

 

オーバーマイヤー法もただの多数決、自律型分散もうまくいかない事例に引っ張られれば(例えば

地方の目立ちたがり担当者の暴走)マイナス面もありますが、ディマンドというプル型を支える補

填策と捉えると、全体から俯瞰すると俄然有効な潤滑油になり得ます。

 

以上が本日の結論です。

ついでに店頭在庫をEC在庫の持ち方について雑感を書いてみます

 

ECと店舗の在庫の持ち方はどうするか

ひとつ繰り上がった拠点に集まる情報は7倍精度が上がる

つまり、一つの店舗の動向から予想するよりも、各店の情報を倉庫に集中させて「動き」を見た

方が予想精度は上がるという事です。動きがある品番は減り、動きがない品番は残るのです。い

わゆるPOSのデータです。7倍という根拠はTOCの研究資料からです。

 

アメリカの様に国土が広い場合は地域倉庫から東海岸倉庫など階層が上がるほど情報精度は上がり

ます。ここで売れてないものが他の地域で売れていることがわかるからです。

 

ECのように店頭と売れる早さが違うチャネルを持った場合、遅い売れ行きの店やチャネルの商材

が歯抜けになってしまうという問題が出てきます。その事を気にしたりしますが、気にしても仕方

がありません。それが需要だからです。

 

それを問題視するなら調達に工夫が必要なのでしょう。なぜ、それほど人気がある事を見逃した

のか?仕入れの量が減る「制約」は何なのか?と考えて解消していく必要があります。どうしても

動きが遅い店を守るのであれば在庫をプロテクトする必要があります。

 

しかし、その店が無くても ECがカバーしてくれるのでは無いかと思います。

 

また、モール型のECプラットフォームにプッシュ型で(期待に胸を膨らませて)在庫を押し込んだ

場合、もしそれが外れたとしてもその分を随時差し戻しもらう事はできませんので、期末まで在庫

は寝た上で売り潰しで利益がほぼなくなるかも知れません。そういう事態は珍しくはありません。

 

ECと店頭在庫は共通にして、どこの引き当てでもそれが一番早く現金に変わるのであれば、それ

を妨げない。ECであれ店頭であれ、過剰な推測で在庫を送り込まないのが大事です。

 

プル型の配分にした場合、ECと同様に足元から売れ筋は無くなり、死に筋が倉庫に残ります。送り

込まないと売れる機会が無くなると言うかもしれませんが、これも発注プロセスに問題があるので

ありプル型に問題があるわけではありません。

 

また、販売期間3ヶ月分をまとめて仕入れるから、倉庫の保管スペースを使うのであり、6週間分

の2回仕入れならスペースは半分で済みます。電子伝票やRFIDタグを使えば手間も省けます。

 

という事で、店別の仕入れ方法は自律型権限分散システムがある事をご紹介しました。何が売れる

かわからない時代にはMD・バイヤーの権限を現場に移譲する事で隠れた需要は拾えるのではない

か?という話と

 

プッシュ型で奥行き(売り上げ計画達成前提の)ごと店頭に送り込む無謀さ。中央司令型ならば

プル型にして(市場の意見を聞く)店頭を構成した方が良い事、その方法でECの在庫共有を考え

た方が良い事を書かせていただきました。

 

このプル型の配分システムに興味がある方に紹介した本があります。

「ザ・クリスタルボール」

TOCを用いた小売業への提言

TOCの本は有名な「ザ・ゴール」を始め、小説形式で書かれています。主人公が在庫や納期の問題

で苦しい立場に立たされ、そこにTOCのヒントをもたらす人が現れ、ヒントを頼りに事態を解決し

ていく流れです。

 

「クリスタルボール」の設定は、主人公があるホームファニシングチェーンの娘婿で、勉強のために

ある店に配属されます。その店の在庫は地下フロアにあるのですが、配管工事のミスで水浸しになり

その場所が使えなくなってしまったというシーンから始まります。

 

商品置き場が無いので、必要最小限を除き本部に送り返したところ、売り上げが上がり始めた!と

いうストーリーです。店舗在庫が減れば売り上げは下がると諦めていたところ、逆に売り上げが上

がる不思議な事態となり、娘婿の立場からその因果関係を突き止めようというのが話の流れです。

 

「ザ・ゴール」は有名ですが、工場が舞台となっていて自分の立場には関係ない話でした。その点、

クリスタルボールは自分の業界でしたので、これはヒントが満載のはずだと読み始めましたが、結

果「よくわからない。。」という感想でした。

 

自分が大事な点を見逃してると思い、周囲にも本を配ったのですが、ストーリーの裏が読めずに消化

不良でした。もう20年前の話です。

 

書いてある意味がわかったのは、TOCももちろんですがトヨタ思考まで遡ってようやく。。という感

じです。今日記事にした事はこの本を読むにあたりヒントになる事をテーマにしましたので、合わせ

て読んでいただければお役に立てるかと思います。

 

題名のクリスタルボール(魔法の水晶玉)の意味は、「魔法の玉でも持っていない限り、小売業者

が明日売れる物を事前に予測する事はできない」という意味です。

 

題名からして「MD君、どんなに頑張っても限界があるんだよ」ですから、社内で話をするのに気を

使った思い出があります。w

 

本当に小売における在庫の話は富士山のような物で、いろんな方向から語り口があります。また、

違う切り口で取り上げたいと思います。

 

今日の話のポイントは、サプライチェーンとディマンドチェーンを連携させれば良い事はイメージ

できるとして、その連携のさせ方にヒントを与える事を意図しました。特にディマンドチェーン

ですが、予想できているというディマンドチェーン にサプライを合わせるのか?

 

それともディマンドという需要は市場の反応見ない限りわからない物なのか?どちらのスタンスで

考えるのか?という部分をクローズアップさせてみました。

ではまた次回

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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