49:「秋以降のオーダーとオーバーマイヤー法」

こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?

 

Contents

セカンド・ショック

コロナの感染率も下がりつつあり、とりあえずはありがたい事です。ただその次の段階に進み次の

「セカンド・ショック」が広まりつつあると感じています。言わんとするところはファースト・シ

ョックが”自分が感染するかも!という恐怖。セカンドショックが”これから生活していけるのか?”

という経済的ショックです。

 

 

経営者の方には先月からとりあえず救済資金の借り入れ、借り換えをお勧めしている次第ですが、5

月に入り給与の減額等の通達が入り始め、アパレル各社販売員の動揺が入り始めています。実質働い

てないから仕方がないとは言うものの、各自生活がありますので考えてしまいます。よろしくないの

は先行きの「不透明感」がある事です。

 

誰も人類に対する災害規模の影響を見通すことはできません。ただ足元が崩れつつあるまま先の予

想がつかないと言うのは恐怖です。とりあえず積み立てを休止したり取り崩したり、家計の見直し

に追われていると察します。

 

メーカーの知人に尋ねても、「秋物は間に合わないのでとりあえず冬物の提案を」と言われてるそ

うで、収入の激減を感じてる様です。とてもそれ以上声をかけられない状況です。個人としても組

織としてもこれから本格化するセカンドショックをどの様に受け止めるかは大変な事です。私ごと

きキャリアでは答えを持ち合わせる訳ではありませんが、手元の良書からヒントだけでも差し上げ

たいと思います。

 

「シンク・クリアリー」ロルフ・ドベリ著

(32:「精神的な砦」をもとう)参照

 

つらい状況を乗り切るための4つのアドバイス

運命の輪

ロルフさんが言う「つらい状況」に現在は充分当てはまると思われます。そのアドバイスは

1、運命の輪に乗りあなたの今に至る(多少なりとも)成功があるのならば、その逆の

下り坂も同じ様に受け入れなければならない。そして状況はまた変わる可能性がある。

 

2、自分が所有している全ての物、大事にしているもの、愛するものこれらは全ては永遠

ではないと理解しておく事。

 

3、もし全てを失ったとしても、これまでの人生には良いことは多かったし、良い時も何

かしら、負の状況はつきものだったことは忘れないこと。

 

4、あなたの思考や、思考の道具や、不運・損失や状況の悪化に対する精神的な対処法だけ

は、誰もあなたから取り上げられないということ。それこそ「精神的な砦」だ。

 

西暦500年当時の哲学の話ですので、抽象的に聞こえるかも知れませんが、良いことと悪いことは

たがいちがいに糾える縄のごとしです。私たちがここまでの店を築いて、また正社員で実績を残した

のも自分の実力ですから、目の前が真っ暗に見えてもその力は働くのでまた希望は見えてきます。

 

特に4番目の「思考」は誰にも奪われませんので、この逆境への対処法を考える力は経験となり

自分に残ります。足元の経済的な辛苦はお互いしのぐしかありませんが、その事と未来が暗いと

決めてかかる行き過ぎには関連がないと諭してくれていると私は理解しました。

 

 

星野リゾート社長の見通しを参考にする

今後の見通しについて「星野リゾート」の社長が良い図を作られていたので紹介します。

11分の動画、後半に出てきます

 

個人的に良いと思った点は、波動で進行していく図になっていることです。目先は一喜一憂しがちで

すが、その様な波動で徐々に切り上がっていくイメージはわかりやすいのではないでしょうか?また

経営者がこの様な手書きでも見通しのイメージを授業員に伝えることは大事です。その点も良いと感

じた次第です。

 

経営者は先を見るお仕事ですから、組織内で語るべき時に語るべきです。こういう引用でも良いと

思います。足元の金銭的なダメージから視線を上に上げてやらねばなりません。

 

秋以降のオーダーをどうするか?

ということで、セカンドショックへのアドバイスを踏まえて今日のテーマです。関係者にお出しし

たメルマガの「今後の10大予測」に書いた、この秋以降の発注についてです。

 

大方秋物には春物を混ぜて売るであろう事、現物を当てにするであろうというのは察しがつきます。

8月に暑くなるよりは7月に暑さのピークが来た方が傾向としては秋物が売りやすいだろうと思いま

すが、予算も7掛けが平均的とは想像しますが何ら根拠のあるものではありませんし、それ以上の

ことは私も申し上げる術を持ちません。

 

この秋冬どうしたら良いのかについては完全な野次馬レベルです。短期的にはお手上げですが、中期

的には有効な方法があるのでご紹介いたします。

 

80年代にワールド社が開発した基本的な手法です。80年代のワールドには私も在籍していました。

しかし部署違いと年代が少し違うのでこの手法を見ることはありませんでした。これを知ったのは

神戸大学のレポートを見た事です。

 

そして2010年時代でもセレクトショップの大型事業の立て直しで効果があったのを見ています。(当

事者たちがその様なレポートに紐づけて成功事例として理解発表していた訳ではなく、IR発表の中か

ら私が近しい事例と感じたという趣旨です)

 

こんなことで(手法は至って単純)、これほど効果が出るものなのだ!というのが実感です。この

30年も前からあることが、最近のデジタルトランスフォームでより有効になるでしょうという話です。

アキュレート・レスポンスとオーバーマイヤー法

先読みが可能、先読みが不可能

字数が長くなりそうなテーマなので、端折って書きます。そもそもトレンドや需要の予測は可能と

考える人と、不可能と考える人がいます。不可能と考える人の対処法は2つです。事実が出てから

その流れに沿っていく考え方。

 

需要は予測できないから

1、なるべくひきつけて企画する シーズンき中に重きを置く。

2、売りきりの商品をたくさん出す。奥行きを付けない。

 

引きつけは学生シンドロームに陥る

実際にやればわかる話ですが、引きつけは上手くいかない。引きつけて失敗する話は異業種の生産

管理の現場でも多くあり「学生シンドローム」と言われています。いわゆる一夜漬けです。後ろへ

後ろへずれてしまい、引き付けすぎで生産する機会を失ってしまいます。

 

そうなってしまうと、このやり方で多発するのはコピーです。丸投げ完コピに陥ります。(私の経験で

は成功事例を知らないだけで無理とは言いません、締め切りの感覚を持てるかどうかです)

 

締め切りが作家を強くする

一方、千駄ヶ谷や船場、OEMメーカー様で6ヶ月前に立派なコレクションを出される方もいらっしゃ

います。締め切りがあるからこそ出来ることもあると思います。引きつけるもよし、先行発注もよし、

それぞれのメリットデメリットがあります。

 

 

デメリット対策が発注の精度を上げる

ここで注目してもらいたいのは、デメリットです。デメリット対策が加わると使える策に変化します。

上記の2番:新作を他品番作っていくと、死に筋がバラバラと残り売れ筋が無くなります。そこでZAR

Aは(観測者の主観)売れ筋の要因を分析し、それを後続の企画に載せていきます。死に筋は細かくマ

ークダウンしていきます。

 

そうしますと、全体の方向は売れ筋に向かって修正されていくことになります。これを成し遂げるに

は素材キープとサンプル工房、自社工場、世界にまたがる分析チームの様な組織だった仕組みが必要

です。

 

部分的な模倣は可能なので、秋冬の需要が上振れする場合に備え、店舗数が多いところなどは、メーカ

ーとタイアップして「駅そば」方式で半加工で注文後に製品化することを考えても良いかも知れません

。ただし、製品化しない場合も原料、ライン確保代のコストは協力(手数料)する必要があります。

 

 

先読みは可能だ、しなければならない派の場合

6ヶ月前に展示会をする必要のあるメーカー、またはロットの関係で先に動く方は多いと思います。

この場合に有効なのがアキュレートレスポンス(需要応答)とオーバーマイヤー法です。ワールド

社はGAPのビジネスモデル「SPA」を完成させた世界史に残る企業です。

 

オーバーマイヤーはスポーツメーカーの名前です。行われていたのは「5人の目利きにサンプルの評

価を出させ(5点満点)平均値が3を上回る物だけ進行していた」です。誰でも知ってるけど実行し

ている人は少ない手法です。(奇数と奇数の組み合わせ)

 

5人の評価点数の平均値は2つのパターンで出てきます。

意見が中央に集約されている、いわゆる「平均」です(破線部分)

次に意見が両極に分かれている場合、これはどの様に感じますか?

もし両者の点数が近似値だとしても、両者の意味合いは変わってきます。満場一致は悪く言えば

優等生的商材。意見が割れた商材はくせが強い商材。どちらも魅力的です。

 

オーバーマイヤー法は点数ベースで判断しますが、アキュレート・レスポンスでは標準偏差を使いま

す。(工夫を加えている)

 

 

学生時代に馴染みのある「偏差値」です。偏差の大きいばらつきのある(評価が異なる)点数なのか、

偏差が少ない満場一致なのかを見るやり方です。(現在使われているのかは知りませんが)

必見のインタビュー記事(「アパレルの常識を変えたワールドとZara」

 

偏差を見るやり方は大学レポートに紹介されています。偏差がばらついた場合は、何か気にかかる事

が含まれていると予想します(満場一致にならない理由がある)。。その場合、数を減らしてし生産

してしまうか、少ない数で投入し市場の反応を見て修正する方法があります。

 

後者の方法であれば、生地を積んで市場の反応で企画修正をするZARAの手法と似ていることになりま

す。

 

結論

先読みはアキュレートレスポンスの様に、目利きでミニテストを行うことでデメリットを補完する。

後出し派も立ち上がり商材の反応を見て行うという意味では、この業界ミニテストに勝るものは無

ことが分かる。そしてこれを直接消費者に聞いてしまうのが、先行予約会方式になる。

 

最も、これらの方法が話題にならず過去形になってしまっているのは、市場の高齢化に伴い、マス

層が薄れたせいと思われます。またブランドが小型化し人材がばらけるとこういう仕組みは続かな

いものです。しかし、インタビューでも分かる通り、世界が学んだお墨付きの手法です、活かさない

のはもったいない。

 

ぜひ専門店にはオーバーマイヤー法で十分なので使ってみることをお勧めします。

もう一つの意味でもったいないのは展示会のバーチャル化が今後見込めるからです。

5月11日繊研新聞「デジタル展示会で取引先を増やす」参照

展示会のバーチャル化

展示会のデジタル化のメリット

展示会のバーチャル化は進むであろうという前提でお話します。新聞記事のもある通り、展示会用に

バーチャル環境を用意します。新作毎に企画者の解説動画が付いています。その予習をした上で営業

とリモートで商談が可能です。

 

商談のタイミングは選べるので、受注動向と見比べてオーダーも可能です。従来は展示会場に行けない

スタッフも参加でき意見が反映が可能です。ただ何事もデメリットがある様に物理的にさわれないため

「 EC販売はともかく発注は出来ない」という声があるのも確かです。

それでも取り入れられると思う私の予測は

 

①定番商材や雑貨アクセサリーの商談には有効である

②都度、補充品を仕入れる商談には向く

③トップ20%の柱の商材検討には向く

です

 

①により効率化されたバイヤーの時間確保で、新しい商材探しの時間が生まれます。新規取引も

わざわざ出かける前に画面でプレゼンを受ければ、リアル展示会にいくか選別できます。

②の補充品は欠品になりやすかった商材を回転させることができます。回転が効くのはEC販売を

考えると重要です。アクセサリーなどはZOOMの画面越しの方がわかりやすい(バーチャル背景

付けたりして)かもです。

 

そしてアキュレートレスポンスと相性が良いのが③になります。目利1人よりも5人の方が確率が上が

ります。ホームランバッターとしてバイヤーを見てるのならばバイヤーを自由にさせれば良いです。

ファッションという特性上、全てが多数決というのも不健康ですし、バイヤーがくさってしまいます。

ブランドや商材特性で分けると良いでしょう。

 

私の経験上、効果が出るのは2項目

・奥行き不足の解消

・品番縮小

バイヤーは数字が大きくなるほどストレスに晒されます。前年の数字を超える目標ならば、前年に

ホームランが二本なら、今年は三本というプレッシャーに押さえ込まれます。そうなると前年と同

じや商材やZOZOで見る他社と同じような物になりがちです。プレッシャーを経験すると新人の頃の

ような爽快なスイングは影をひそめてしまいます。

 

また作る側にも売る側も迷いが生まれて来ると品番数が膨らみます。特に今年の様なわからないシー

ズンは品番が薄く広がるでしょう。また多くのお店でECに取り組んでいますが、在庫の持ち方に問題

を抱えています。「奥行きに自信が持てない」この対策にもよろしいかと考える次第です。

 

尊敬すべき故野村監督曰く「必勝法がない以上、確率を高める。」です。

現物が売れると嬉しいが先が見えると幸せになる

 

メーカーさんがZOZOにショップを構える事で嬉しいのは、日々在庫が換金されいくからです。パチ

ンコの千両箱が少しずつ溜まっていく様な嬉しさがあります。

 

しかしD2Cがその上を行くのはのはオンラインサークルとして、ファンクラブを運営しながらその

ファンが目利きとなってより望まれる商材の開発につながっていく事です。間に卸や営業が入らな

いのでピュアな情報交換となることが商品を強くするのです。

 

この様に直接消費者と「意見交換できる場」を持っている人は、オーバーマイヤー法かアキュレート

レスポンスで先行品の感想を集約することができます。意見を出してくれることに、先行クーポンや

ポイント付与することでウィンウィンになります。

 

完璧を目指さない

完成度60%でよし

1ヶ月で完成度60%のMDプランを作って、そこから精度を上げようとすると、80%〜90%の

完成度まで上げるにはプラス2ヶ月、都合3ヶ月の時間がかかります。90%以上にするにはもっと

掛かります。

 

これは一般的なプロジェクト設計で目安になる時間軸です。なのでプロジェクト進行も計画は60

%の精度で進行させて、その後臨機応変に対応していきます。計画に時間をかけすぎると、設計・

施工の時間がなくなってしまうのです。

 

同じ様に、見えない未来(需要)に対する制度は柔軟性に求めるべきです。60%の計画性をベース

にシーズンイン後80%まで調整していくのが良いでしょう。

 

最終的な重要性は「思い込みの修正」

ファッションですので思い込みは重要です。しかし、もう売れないという判断が早すぎる場合があ

ります。こんなにスニーカーが続くなんて思わなかったはずです。

 

商材の需要が継続したり、根強い人気があったりするとバイヤーは気付かないことがあります。

気持ちは次に行ってしまうからです。その場合最後尾に位置する販売員の投票意見は大事になりま

す。特にシーズン間の端境の時期の需要はバイヤーより販売員の方がわかるでしょう。

 

そういう意味で、仕入れ計画は完璧を目指さない方が良いと個人的には考えています。そして、デ

ジタルの活用でその様な柔軟性を加えやすくなってますので、今こそオーバーマイヤー法を使って

みるチャンスだと思います。

 

こういう年は、評価点数の上位はしっかりメーカーに伝えて、少なくとも素材はキープしてもらう

なりのウインウインを考えてみてください。

 

経験上、オーバーマイヤー法もある範囲(価格〜テイスト)には有効ですが全てではありません。

結果と分析の内容を照らし合わせれば、自分たちの得意レースは絞れてくると思います。

必勝法ではないが、確率を高めるものだと。。

 

ではまた次回

 

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